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好きな言葉を採集

短歌、俳句、川柳、雑記

道灌と山吹伝説

孤鞍雨を衝いて茅茨を叩く

 

これは漢検準1級の読みの問題です。「茅茨」をどう読むかわかりますか。答えは「ぼうし」です。粗末な小屋、といった意味です。

 

この問題文、どう見ても漢詩から来ているようです。調べてみたら、太田道灌の作でした。漢検準1級にもなると漢文の勉強に近くなるんですね。やはり日常生活で使う言葉がほとんどを占める2級とは別世界です。

 

孤鞍雨を衝いて茅茨を叩く

少女爲に遺る花一枝

少女は言わず花語らず

英雄の心緒亂れて絲の如し

 

太田道灌は雨の中、一人で馬に乗っている。粗末な小屋を見つけ、その戸を叩く。小屋からは少女が一人出てきた。雨具を借りたいと言う道灌。少女は小屋へ戻り、盆に一輪の花を載せて持ってきた。鮮やかな山吹の花だった。少女はうつむいたままその盆を差し出す。軒先から雨粒が滴り落ちる音が静かに聞こえる。道灌には意図がわからず、花とうつむく少女をただ見つめるばかりだった。少女は少し震えているように見えた。道灌は困惑したまま山吹を手に取り、何も言わずその場を立ち去った。

帰り着いた道灌は臣下にこの話をした。すると臣下は道灌に古い和歌を一首教えた。

 

「七重八重花は咲けども山吹の実のひとつだになきぞ悲しき」

 

少女は蓑一つさえ貸すことができなかったのだろう。道灌は自分の歌道に暗いことを恥じた。そして、何も言えず立ち去った自分を恥じた。

 

この話は古典落語「道灌」にも登場します。落語の中では、道灌は単に自分が歌道に暗いことを恥じて、のちに研鑽を積んで歌人としても有名になる、という解説がされます。

 

雨の降る中で立ち尽くす武人と花を差し出す少女。その緊張感がもたらす結論は「歌道に暗かった」よりも、もっと違う何かであってほしいと私は感じました。

 

(再掲)