わたしのひとり会

短歌、俳句、川柳、落語、読書、雑記

冬に詠んだ歌と句 小石川後楽園にて

東京ドームのすぐ隣にある小石川後楽園の梅は七分咲き。カメラを担いだ人たちが思い思いに写真を撮っていました。

 

 

無機質な巨人に覗き込まれつつ小梅を愛でる後楽園かな

 

 

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バズーカのようなカメラに梅一輪

 

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私より撮られ慣れてる鴨たちの退屈そうに毛繕いする

NHK短歌 「苦しむ」 島谷ひとみ

2月放送 「苦しむ」

選者:坂井修一
ゲスト:島谷ひとみ
司会:剣幸

 

 今回のゲストは「亜麻色の髪の乙女」でおなじみの島谷ひとみさん。今回のお題は「苦しむ」だったからなのか、入選歌はどれも心に響きました。

 

せっけんが
つめにはいった
ときほどの
まろい苦しみ
あなたのウソは

 

 若い方が作ったそうです。爪に入った石鹸のたとえが、絶妙に共感を呼びます。

 

有無という
アントニムだけ?
そうじゃない
生む苦しみと
生まぬ苦しみ

 

 この歌は島谷さんが推していました。友人は子育てに忙しい時期だけど、自分は独身。どちらの言い分もすくい上げています。私も独身で、まだ友達も結婚していないけれど、きっとこんな風に感じるときが必ず来るんだと、身につまされました。短歌というと繊細で優雅な文芸という印象が強いですが、人生の苦しみ、人間のドロっとした感情、そういったものも織り込めるんだと再認識させられます。


 坂井先生が紹介した今回の歌も、とても印象に残りました。

 

吾と同じ
目線の高さ
柵ごしに
駝鳥は夏の
憂ひを運ばず
(大塚寅彦)

 

 みなさんは駝鳥を目の前で見たことがあるでしょうか。私は高校時代、学校の隣の付属大学が持っていた飼育小屋で駝鳥を見たことがあります。私よりも少し高い身長、一回り大きな体格。キリンや象のように自分よりもずっと大きな動物だと、遠くから眺めることができますが、妙に近いサイズだと、人間と鳥という違いがよりいっそう際だつ。そういう不思議な感覚になったことを思い出しました。
 きっと檻に入れられている駝鳥。同じ目線の高さなのに、私と違って憂いを運ばない。駝鳥をすぐ目の前にしたことのある人ならきっと、この歌に共感すると思います。…こんな歌を詠めるようになった良いなあと思わされます。

 

 恒例の坂井先生からゲストへの歌のプレゼント。今回はこんな歌でした。

 

あそぶ髪
舞ふ歌姫の
いやさかを
ロザリオの玉
野薔薇 祈らめ
(坂井修一)

 

 折り句はもう分かりますね。頭文字と末尾の文字をつなげて読むと「あまいろのかみのおとめ」です。こんなに長い折り句は初めてだそうです。後ろの2句が意味が分からん、と思わないこともないですが(笑)、これだけ仕込むのは相当な技術なんだろうなあ…と思わずにはいられません。

 

4月から選者が変わります。
永田和宏、大松達知、黒瀬珂瀾、佐伯裕子の各氏。

 

道灌と山吹伝説

孤鞍雨を衝いて茅茨を叩く

 

これは漢検準1級の読みの問題です。「茅茨」をどう読むかわかりますか。答えは「ぼうし」です。粗末な小屋、といった意味です。

 

この問題文、どう見ても漢詩から来ているようです。調べてみたら、太田道灌の作でした。漢検準1級にもなると漢文の勉強に近くなるんですね。やはり日常生活で使う言葉がほとんどを占める2級とは別世界です。

 

孤鞍雨を衝いて茅茨を叩く

少女爲に遺る花一枝

少女は言わず花語らず

英雄の心緒亂れて絲の如し

 

太田道灌は雨の中、一人で馬に乗っている。粗末な小屋を見つけ、その戸を叩く。小屋からは少女が一人出てきた。雨具を借りたいと言う道灌。少女は小屋へ戻り、盆に一輪の花を載せて持ってきた。鮮やかな山吹の花だった。少女はうつむいたままその盆を差し出す。軒先から雨粒が滴り落ちる音が静かに聞こえる。道灌には意図がわからず、花とうつむく少女をただ見つめるばかりだった。少女は少し震えているように見えた。道灌は困惑したまま山吹を手に取り、何も言わずその場を立ち去った。

帰り着いた道灌は臣下にこの話をした。すると臣下は道灌に古い和歌を一首教えた。

 

「七重八重花は咲けども山吹の実のひとつだになきぞ悲しき」

 

少女は蓑一つさえ貸すことができなかったのだろう。道灌は自分の歌道に暗いことを恥じた。そして、何も言えず立ち去った自分を恥じた。

 

この話は古典落語「道灌」にも登場します。落語の中では、道灌は単に自分が歌道に暗いことを恥じて、のちに研鑽を積んで歌人としても有名になる、という解説がされます。

 

雨の降る中で立ち尽くす武人と花を差し出す少女。その緊張感がもたらす結論は「歌道に暗かった」よりも、もっと違う何かであってほしいと私は感じました。

 

(再掲)

冬に詠んだ歌と句 六義園にて

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老梅や恥ずかしそうに灯りおり

今は無き川の端に立つ老梅や

 

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ビル街のゆらりと映る池の端の渡月橋へと歩み出す君

渡月橋わたりきったら今度こそインチキをせず生きてゆきたい

ビル街の映る水面を泳ぐには優しい形の水鳥が向く

水鳥の蓬莱島に腰掛けておおあくびする木曜の昼

NHK俳句 「節分・追儺」 夢枕獏

NHK俳句 1月放送 「節分・追儺

 

選者:夏井なつき
司会:岸本葉子
ゲスト:夢枕獏

 

今回のゲストは「陰陽師」で有名な作家・夢枕獏さん。恥ずかしながら読んだことはないのですが、お名前は知っています。とてもおだやかな印象のおじさまです。今回の兼題が追儺という儀式なので、漫画「陰陽師」のイラストを示しながら、夢枕さんから解説がありました。これはぜひ読まないと!

 

節分というと鬼に豆をまくイメージしかありませんでしが、それは追儺の方。節分は時候の言葉。儀式を指しているわけではないんですね。明日から春が始まる、というのがポイントの言葉だそうです。具体的なイメージが湧く言葉ではない分、いろいろな言葉との取り合わせで楽しめる、と夏井先生がおっしゃっていました。

 

節分の朝ほどのよき空の青
夢枕獏

 

夏井先生の季語道場コーナーで夢枕さんが提出した自作の句。なんと先生からの添削は一切なし!初めてのことだそうです。明日から春、という節分をうまく表現しているとのことです。「下手にいじらないほうがいいわ!」と夏井先生が言っているのは驚きました。

夢枕さんは俳句小説を構想中だそうです。今回の放送を見たら、完成が楽しみになりました。発売されたらぜひ読みたいです。

 

歳時記をちゃんと買おう…と思った次第です(笑)

NHK短歌 「聴く」

NHK短歌 1月放送 「聴く」

選者:伊藤一彦
司会:剣幸
ゲスト:筒井真理子

 

今回のゲストは映画「淵に立つ」で主演を務めた筒井真理子さん。カンヌ映画祭へ行ったときの思い出を歌を、伊藤先生につくってもらっていました。

 

たらちねの母作りくれし着物きて喝采受けぬ映画「淵に立つ」
(伊藤一彦)

 

まさに。といった感じの歌。今回はご本人が作ってきてはくれなかったのが残念でした。
伊藤先生の回で楽しみなのは牧水紀行。私も先日岩波文庫の牧水歌集を買いまして、すこしずつ読んでいるところです。今回紹介された牧水の歌で気に入ったのは次の歌。

 

旅人のからだもいつか海となり五月の雨が降るよ港に
若山牧水

 

私にとっては牧水というと「白鳥や」の歌のイメージが強くて、寂しさ、哀しさの歌が多いのかと思っていました。(この歌もどちらかというと、それに近いのかな?)

 

山を見よ山に日は照る海を見よ海に日は照るいざ唇を君
若山牧水

 

牧水は自然の中の人間のちっぽけな悲しさだけでなく、情熱的な恋の歌もかなり作っているんですね。NHK短歌テキスト1月号にも載っているのですが、この時代の人にしてはかなり大胆に恋を歌っています。今はすぐに「中二病」といわれてしまうけれど、恋愛という新しい価値観が入ってきた明治は時代そのものがまるで浮かれた青春。なんの恥じらいもなく、我に返ることもなく歌っています。短歌という形式自体が「二の線」を要求する、というのは納得です。

 

成熟を通り越してしまった時代だからか、何かというとすぐに「中二病」とか「メンヘラ」などという言葉で片づけてしまいますが、そういう感想しか持てないのは表現の幅を狭めているのかもしれないと反省しました。

 

 

 

NHK俳句 「風花」

NHK俳句 1月放送「風花」

 

選者:堀本裕樹

司会:岸本葉子

ゲスト:羽田圭介

 

今日のゲストは芥川賞作家で最近はテレビにもよく出ている羽田圭介さん。小説家だと俳句や短歌なども慣れ親しんでいるものかと思ったら、そうでもないとようです。羽田さんは俳句のように余白を楽しむ文芸ではなく、行間を読ませない、ぎっしり情報をつめこんだものを書きたいタイプみたいです。(まだ小説を読んだことがないので、これを機会に読んでみようと思います)

入選句の感想を求められても、「いやあ、分かんないっすね」と答えることが多く、なんとも居心地が悪そう(笑)静かに淡々と進んでいき、派手な演出やVTRなんかも全くない進行だからこそ、ゲストの人となりをじっくり見ることができるのが、この番組の良さだと改めて思いました。

 

風花や誤配の手紙うつくし

 

私はこの入選句が一番好きでした。風花は天気の良い日に降る雪のこと。本来なら来るべきところではないものが届く様子を、誤配の手紙に託すとともに、自分宛ではない手紙へのロマンを感じます。心待ちにしていた届いてほしい別の手紙もあったのかもしれない、と思うといろんなストーリーが想像できます。

 

冬の朝毎日作るハンバーグ

(成功者K)

 

羽田さんが作った句です。成功者Kというのは、以前使っていた名前だそうで、芥川賞を取ったあとのいま使うと痛い感じがしてしまう、と本人が言っていました。無名の頃にこういう名前をあえて使っていたあたりに、にやっとしてしまう私がいます…(笑)

 

話は逸れますが、司会の岸本葉子さん、日経新聞の夕刊1面のコラム「あすへの話題」で連載がスタートしたようです。いつもテレビで見るばかりで、そういえば本業のエッセイを読んだことがなかった(^^;)新聞で見かけたときは目を通すようにしています。